血糖値とは
血糖値とは血液中の糖分の濃度です。食事から摂取した糖分は腸から吸収され、血液に入りエネルギー源と変わります。
血糖値が高くなると、インスリンというホルモンが作用して血糖値を下げます。
しかし、糖尿病ではインスリンが不足したり効きづらくなったりすることで、血糖値が高い状態が続きます。この状態が長期間続くと、心臓、脳、腎臓、眼、神経などに障害を引き起こします。
正常な数値と「高い」基準
日本糖尿病学会では、正常な食後血糖値の範囲を70~140mg/dLと定めています。
さらに、空腹時の血糖値が110mg/dL未満、食後2時間の血糖値が140mg/dL未満の場合を正常型と定義しています。
空腹時の血糖値が100~109mg/dLの場合は「正常高値」とされ、糖尿病のリスクが高い状態と見なされます。
ただし、正常値より高いからといって、すぐに糖尿病の診断がつけられるわけではありません。
空腹時の血糖値が110~126mg/dL(空腹時高血糖)、または食後2時間の血糖値が140~200mg/dLの場合(食後高血糖)は境界型(糖尿病予備群)とされます。
血糖値が高いと現れる症状
血糖値が200mg/dL程度ではほとんど症状は現れませんがが、300〜400mg/dLになると次のような症状が現れます。ただし、これらの症状は他の病気でも現れるため、糖尿病の発症を見逃してしまう方も少なくありません。
- 喉の渇き
- 多飲・多尿
- 頻尿
- 体重が減る
- 脱水
- 体のだるさ
- 空腹感
- 集中力の低下
血糖値が高い原因は病気?
糖尿病
糖尿病は高血糖を引き起こす病気です。食事後に血糖値が高まると、インスリンが分泌されて血糖値を下げますが、糖尿病ではインスリンが適切に分泌されなくなるため、血糖値が高い状態のまま維持されます。
糖分の摂り過ぎ
炭水化物中心の食事や甘い飲み物を過剰に摂取すると、血糖値が上昇します。消化された炭水化物はブドウ糖に分解され、血液中に溶け込むことで血糖値が高くなります。
食後に血糖値が一時的に急激に上昇する状態を食後高血糖と言い、その後急降下する状態を血糖値スパイクと言います。特に炭水化物や糖質を多く含む食事を摂った後に起こりやすく、インスリンの分泌や作用が追いつかない場合に発生します。これらは、HbA1cが正常範囲内であっても発生することがあり、繰り返し食後高血糖・血糖値スパイクが起こると血管に大きな負担をかけることになり、動脈硬化、心疾患、脳卒中のリスクを高める可能性があります。
運動不足
運動するとエネルギーとしてブドウ糖が使われるため、血糖値を下げやすくなります。そのため運動不足でいると、血糖値が上昇しやすくなるのです。
ストレス
ストレスがかかるとホルモンバランスに影響を及ぼし、血糖値を上昇させることがあります。強いストレスを感じるとコルチゾールが放出され、ブドウ糖が多く生成されます。また、ストレスが溜まると食べ過ぎてしまうことも血糖値上昇の原因です。
薬・その他の病気
ステロイド薬などの薬や、膵臓疾患や甲状腺機能亢進症などの病気によって血糖値が高くなることがあります。
血糖値が高い状態が続くと
どうなる?
血糖値が高いままでいると、以下のような合併症のリスクが上昇します。
動脈硬化による脳梗塞、心筋梗塞
高血糖状態は血管にダメージを与え、動脈硬化(動脈の血管が硬くなり弾力を失った状態)を進行させます。これにより、心臓病や脳卒中のリスクが増加し、血管内にプラークや血栓ができて血の流れが滞ってしまいます。
糖尿病合併症
(網膜症・腎症・神経障害)
初期の糖尿病は基本的に無症状です。しかし、そのまま放置すると、神経障害、網膜症、腎症を合併症として引き起こす恐れがあります。
神経障害…手足の末梢神経に障害が起き、麻痺やしびれが生じます。
網膜症…眼の網膜血管に障害が起きることで、視力低下や失明に至ることがあります。
腎症…腎機能の低下、腎不全が引き起こされます。
感染症や認知症、がんなど
高血糖状態が続くと免疫細胞の機能が低下し、肺炎や尿路感染症、皮膚感染症、歯周病などの感染症にかかりやすく重症化しやすいことが分かっています。
また、糖尿病の方はそうでない方に比べて、アルツハイマー型認知症に約1.5倍、脳血管性認知症に2.5倍なりやすいと報告されています。
さらに糖尿病患者さんは糖尿病のない人に比べて、約1.2倍がんにかかりやすいと言われています。
癌種別では、肝臓がん2.2倍、膵臓がん2.1倍、大腸がん1.3倍と消化器系の発がんリスクが高いことが特徴的です。
「血糖値が高い」と言われたら
健康診断で「血糖値が高い」と指摘された場合は、まず医療機関で精密検査を受け、糖尿病かどうかをチェックしてください。
治療が必要と診断された場合は、医師の指示に従いながら適切な治療を受け続けましょう。
一方、治療が必要なレベルではない場合は、血糖値上昇を防ぐ生活習慣を送ることに意識しながら、悪化を予防すると良いでしょう。
特に、食事の量やメニュー、食べ方を工夫することで、スムーズに血糖値が改善されます。
血糖値を下げる方法&高い時の食事・対策
食事療法
食事療法は高血糖及び糖尿病のコントロールにおいて基本であり、一番重要視されている方法です。糖質を適切にコントロールすることで、血糖値が安定しやすくなります。ここでは、必要なエネルギーを摂取しつつ、血糖値を正常に保つために気を付けたいことをまとめていきます。
糖質を減らす
ごはんやパン、麺類などには、食後の血糖値を上昇させる糖質が含まれています。糖尿病または糖尿病予備軍と診断された方は、これら主食の量を減らすことから心がけましょう。主食を減らしても、肉や魚、野菜を多く摂ることで必要なエネルギーは摂取できます。日常生活が忙しくなると、ついおにぎりや菓子パン、カップ麺などの単品で済ませがちになりますが、こういった食べ方は血糖値の急上昇の原因にもなります。おにぎりに焼き鳥や卵料理、野菜サラダを追加する、菓子パンではなく具の入ったサンドイッチを選ぶなど、糖質以外の食品を一緒に摂るようなメニューにしましょう。
糖質が多く含まれる食品の例:
- 米、小麦製品
- 芋類、豆類(サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、緑豆など)
- 果物(フルーツジュースも含む)
- 市販のお惣菜:煮物や佃煮、点心、揚げ物など(砂糖や小麦粉が多く使われています)
- 飲み物:清涼飲料水、ヨーグルト飲料など
食物繊維をとる
野菜は低カロリーで、食物繊維が豊富なため、食後の血糖値急上昇を予防する効果に期待できます。生活習慣病や成人病の予防には、1日350g以上の野菜を摂ることが推奨されています。ただし、ポテトサラダやマカロニサラダなど糖質が多いものは避けるのが望ましいです。
食物繊維の5つの働き:
- 噛みごたえが増し、満腹感が得られる
- 便秘の予防・改善
- 有害物質の排泄を促す
- 腸内の環境を改善させる
- 血糖値スパイクを防ぐ
腎臓に問題がある方は、生野菜のカリウムを減らすため、お湯でゆでこぼしたり水にさらしたりすることが推奨されます。市販されている野菜ジュースには糖や塩が添加されていることが多く、食物繊維も不溶性が少ないため、野菜そのものから摂取することが大切です。
たんぱく質を積極的にとる
たんぱく質は体を作るために欠かせない栄養素です。
たんぱく質には動物性と植物性があり、肉、魚、卵、大豆製品の4種類をバランスよく摂ることが大切です。
肉や魚であれば1食あたり手のひら1枚分の食品(タンパク質で約15g相当)を摂取することをお勧めします。
タレやドレッシングの中には、糖質が多く含まれる商品もあるため、使い過ぎに注意しましょう。オリーブオイルやバルサミコ酢や塩、レモン、コショウなどで味付けすると良いでしょう。
食べる順番を工夫する
炭水化物には糖質が多く含まれているため、食後に血糖値が急上昇します。どうしても食べたい場合は、血糖値が急上昇しない対策を行いましょう。
まず、食物繊維の多い野菜をゆっくり噛んで食べます。その次に、水分の多い汁物を摂り、その後に肉や魚、卵、大豆製品などのたんぱく質を食べてください。最後に、ごはんや麺類などの主食を摂りましょう。これにより、糖質の摂取量が減らせますし、糖の吸収を抑えることもできます。
また、ご飯を食べたい時は、白米に雑穀や玄米を混ぜると満足感が得られ、食物繊維やミネラルも摂取できます。
パンを食べたい時は全粒粉やライ麦のものを選び、麺類は消化の良いうどんよりも十割蕎麦を選ぶと良いでしょう。
運動療法
運動療法は血糖値コントロールにおいて、食事療法と並んで欠かせない要素です。適度な運動は過剰なエネルギーを消費し、肥満防止にも繋がります。また、血流を促進し、合併症のリスク軽減にも役立ちます。
運動の効果
- 運動するとブドウ糖が消費され、血糖値が下がりやすくなる
- インスリン分泌に依存せずに血糖値が下がりやすくなる
- 運動習慣をつけるとインスリンの効き目が高まり、血糖値が長期的に下がる
他にも、以下のような効果にも期待できます。
- 血圧を下げる
- 中性脂肪を減らす
- 骨粗しょう症の予防
- 足腰の筋肉強化
- 持久力の向上
また、ウォーキングは血糖値を下げる効果があり、道具がなくてもすぐに始められます。日常生活に取り入れ、徐々に距離を延ばしていきましょう。
運動は食後30分以内に行うことをお勧めします。食後すぐに運動すると、インスリンを使わずに筋肉に糖が取り込まれ、血糖値スパイクを防ぐことができます。食後にできない場合は、その場でスクワットや足踏みをするのもお勧めです。
運動を長続きさせる秘訣ですが、「毎日やらなければ」と義務感を抱かずに、その日の気分でやりたい運動をできる範囲で行いましょう。家の中で階段を上り下りしたり、部屋の掃除を念入りにしたりするなど、少しずつ体を動かすことが大切です。
運動療法での注意点
- 準備体操を行い、筋肉や関節を痛めないようにする
- こまめに水分補給を行い、脱水症状を防ぐ
- 体調が良い時に運動を行い、無理をしない
薬物療法
糖尿病の薬物療法は血糖値を下げて合併症を予防するもので、糖尿病そのものを治す薬は現在存在していません。
食事・運動療法のみで血糖値をコントロールするのが一番ですが、それだけでは難しいと判断された時、薬物療法を並行して行います。
糖尿病の薬には、経口血糖降下薬(飲み薬)と注射薬があります。
経口血糖降下薬(飲み薬)
インスリンを効きやすくする薬(インスリン抵抗性改善薬)
- ビグアナイド薬(メトホルミン)
- チアゾリン薬
インスリンを出しやすくする薬(インスリン分泌促進薬)
- スルホニル尿素(SU)薬
- DPP-4阻害薬
- 速効性インスリン分泌促進薬
(グリニド薬) - GLP-1受容体作動薬
- イメグリミン
糖の吸収や排泄を調整する薬
- α-グルコシダーゼ阻害薬
- SGLT2阻害薬
注射薬
- インスリンを分泌しやすくする薬(GLP-1受容体作動薬)
- インスリン自体を補充する薬
(インスリン製剤)
薬物療法の注意点
薬物療法で最も注意すべきは低血糖です。薬が効きすぎたり、誤ったタイミングで服用したりすると、低血糖が起こりやすくなります。
低血糖の症状としては、冷や汗、異常な空腹感、脱力感、動悸、手足の震え、意識障害などが挙げられ、重度になると昏睡状態に陥ることがあります。そのため「低血糖かな?」と感じた際は、すぐに糖分を補給しましょう。
日頃からブドウ糖やスティックシュガーをすぐ近くに置いたり携帯したりすることで、緊急時に備えていきましょう。なお、低血糖の症状が15分以上続いた場合は、速やかに医療機関を受診してください。